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福岡家庭裁判所小倉支部 平成12年(家)49号 審判 2000年12月12日

申立人 X

主文

申立人の昭和34年5月6日付け福岡県戸畑市長宛て婚姻届中、

1  夫「A」とあるのを「A1」と、

2  Aの国籍「朝鮮」とあるのを「韓国」と、

3  Aの生年月日「昭和8年○月○日」とあるのを「昭和9年△月△日」と、それぞれ訂正することを許可する。

理由

第1申立の要旨

1  申立人は、昭和34年5月6日A(通称A2。以下「A」という。)と婚姻した。

2  申立人とAは、当時居住していた福岡県戸畑市の戸畑市役所に婚姻届を提出する際、韓国の面事務所(戸政役場)に対して国籍を証する韓国戸籍謄本の取り寄せを求めたが、同事務所が昭和25年勃発した朝鮮戦争の影響で火災に遇い、戸籍簿が焼失していたため、その取り寄せができなかった。そのため、申立人とAは、韓国戸籍謄本も、国籍を証する文書も添付することができず、戸籍謄本を添付できない旨の理由書を付けて婚姻届出をした。

そして、そのとき、Aは、外国人登録上、氏名が「A」、生年月日が「1933年○月○日生」、国籍が「朝鮮」となっていたため、婚姻届にはそのまま記載した。

3  しかし、Aは、韓国戸籍上の記載では氏名は「A1」、生年月日は「西暦1934年△月△日」となっている。

そうすると、Aの婚姻届中の上記記載は、韓国戸籍の記載と矛盾し、真実に反していることが明らかである。

よって、主文掲記の訂正を求める。

第2当裁判所の判断

1  本件記録によれば、申立の要旨記載のとおりの事実のほか、以下の事実が認められる。

(1)  Aは、1934年(昭和9年)△月△日、父B、母C間の8人同胞中の次男として、慶尚南道昌寧郡<以下省略>で出生し、同月8日、父の出生届出により韓国戸籍に入籍した。氏名は「A1」であった。

その後、Aの入籍した戸籍は改訂、編製され、昭和49年5月29日一部滅失により再製され、戸主Bの戸籍となっている。

(2)  Aは、昭和10年ころ両親らとともに来日し、自動車運転手等をして働き、昭和34年5月6日には申立人と婚姻し、2男2女をもうけた。

(3)  Aは、昭和22年11月8日新規に外国人登録をしたが、両親がほとんど文盲であり、戦後の混乱期でもあったため、誤って氏名を「A」、生年月日を「1933年○月○日」、国籍を「朝鮮」として登録された。Aは、その後の外国人登録更新時に通称名「A2」と登録した。

Aは、生前、外国人登録上、自分の氏名及び生年月日が韓国戸籍上の記載と異なっていることに気付いていたが、特に生活上支障がなかったため、放置していた。Aは、昭和63年7月9日病死した。

(4)  なお、申立人は、1940年(昭和15年)○月○日、父D、母Eの次女として福岡県田川郡<以下省略>で出生し、同月25日、父の出生届出により韓国戸籍に入籍した。当時の氏名は「X」であった。

申立人は、昭和22年8月31日、新規に外国人登録をしたが、出生地は誤って福岡県若松市とされた。申立人は、その後の外国人登録更新時、通称名「F1」、氏名「F2」と登録したが、昭和31年10月9日の登録更新時には自己の氏名を当時使用していた「F3」と登録した(なお、現在は通称名「F4」と登録されている。)。

(5)  申立人は、前記のAとの婚姻届出の際は、前記認定の事情により韓国戸籍謄本等の取り寄せができなかったため、氏名を「F3」、国籍を「朝鮮」とし、生年月日を誤って「1939年(昭和14年)○月○日生」として届け出た。

しかし、韓国戸籍上の記載では、申立人の氏名は「X」、生年月日は「西暦1940年○月○日」となっているため、平成11年9月30日婚姻届中の上記該当箇所を訂正するため、北九州市戸畑区長宛てに追完届出をし、あわせて、昭和63年7月10日付けのAの死亡届中の届出人の本国名「F3」を訂正するため、死亡届の追完届出をして、いずれも即日受理された。

夫Aについては、同人が死亡しているため、前記婚姻届の追完届出はできない。

(6)  なお、外国人登録上、Aの氏名及び生年月日の記載が、韓国戸籍上の記載と異なっているため、日本における申立人とA間の4子の出生届及びAと長男Gの死亡届中の、Aの氏名及び生年月日の記載も韓国戸籍上の記載と異なっており、このままでは、韓国戸籍に申立人とA間の4子の出生届出をすることができず、また同じくAと長男Gの死亡届出をすることができない。

2  以上の事実に基づき検討する。

(本件申立てについて)

本件は日本における婚姻届の訂正を求めるものであるが、外国人が日本において婚姻をする場合には、たとえそれが外国人間の婚姻であっても、日本の戸籍法の規定に従って日本において婚姻届出をすることによってのみ婚姻が成立し(法例13条2項)、戸籍に記載されることはないが、実務上は、これら届書は市長村長が保管し、前に届出た事項に誤りを発見した場合は追完届をさせ、前の届書と一括して市長村長が保存すべきものとされている。そして、これら市長村長の保存に属する届書類は、外国人の身分関係を公証するものであり、日本人における戸籍のそれに準ずる重要な証明書類となるものである(戸籍法48条、戸籍法施行規則66条1項)。したがって、外国人間の婚姻届書類の記載に錯誤ないし遺漏があることを発見した場合には、それが婚姻関係という身分関係に関する事項であることに鑑み、その届出人である外国人は戸籍法113条の類推適用により家庭裁判所の許可を得て届書の訂正を申請することができるものと解すべきである(昭和40年5月13日民事甲第794号、797号各民事局長回答)。

(国際裁判管轄権及び準拠法について)

いわゆる戸籍訂正事件の国際裁判管轄権については、日本法において明文の規定はないが、事案の性質上、原則としてその者の本国に国際裁判管轄権があると解するが相当である。しかし、本件は本国の戸籍の内容を証正するといったものではなく、外国人が法例の準拠法により日本の方式によって行った婚姻届の記載の訂正を求めるものであって、日本の方式による内容の問題であるから、住所地である日本国に管轄権を認めるのが相当である。そして申立人の住所は北九州市にあるから、本件については当裁判所が国際裁判管轄権を有することとなる。

そうすると、同様の理由により、本件については日本法が準拠法となる。

そこで、次に前記婚姻届に錯誤・遺漏があるか否かについて検討する。

外国人の婚姻、縁組等の創設的届出については、その届出によって成立する身分関係が法例の定める準拠法に従って有効に成立するために要求される実質的要件を具備する必要があるが、戸籍実務上は、当事者から本国における権限ある官憲の発給した要件具備証明書を添付させ、市長村長がこれによって要件を具備しているものと認めた場合は、これを受理することとされていて(大正8年6月26日民842号回答、昭和24年5月30日民甲1264号回答)、先例では、要件具備証明書が得られない場合は、その旨の申述書及び外国人登録済証明書を提出させた上で婚姻届等を受理して差し支えないとしている。

本件では、申立人とAの婚姻届出は、要件具備証明書が得られなかったため、その旨の申述書及び外国人登録済証明書を添付した上でされたが、その際Aの外国人登録上の氏名が「A」、生年月日が「1933年○月○日生」、国籍が「朝鮮」となっていたため、婚姻届にはそのまま記載したものであるが、これは韓国戸籍上の記載と異なっていることが明らかである(なお、申立人についても、上記婚姻届の際、前記1(5)認定のとおり、韓国戸籍上の記載と異なった氏名及び生年月日を記載したが、後日婚姻届の追完届出をして訂正した)。

そうすると、上記婚姻届中、主文掲記のAの氏名、生年月日及び国籍の記載には錯誤があり、真実に反しているということができる。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 古川順一)

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